「小規模企業共済」は個人事業主や小規模な法人の役員などが退職や事業の廃止などによって解約した場合、それまで積み立てた金額に応じた共済金を受け取ることができる退職金制度です。

「経営者にも退職金を」というコンセプトで中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が提供しており、対象は小規模な法人の役員や個人事業主で、退職や事業の廃止などによって解約した場合、それまで積み立てた金額に応じた共済金を受け取ることができます。

スタートアップやベンチャー企業の起業家、中小企業の経営者の場合は、自社で退職金制度を整備できないことも多いでしょう。そういった場合は、この小規模企業共済を退職金制度として利用することも多く、個人事業主においては自分に退職金を支給できないため、小規模企業共済を上手く活用している人も多くいます。

ここでは、小規模事業者にとって魅力的な小規模企業共済についてメリットやデメリットを中心に、解説していきます。

1. 小規模企業共済は大丈夫?

せっかく掛金を支払っても解約時に共済金を受け取れないのではないか、といった声もありますが、在籍人数は右肩上がりで増えています。

共済制度を支える組合員の数が増えると、小規模企業共済が破綻する心配は少なくなり、今後も解約時に共済金の支払いが期待できます。

小規模企業共済制度の現在の在籍人数は約159万人、資産運用残高は約10兆8,847億円です。令和3年度の受給状況は、共済金受給額が約5,077億円、共済金受給額の平均は1,128万円、共済金受給者の平均在籍年数は約19年となって(令和4年3月末現在)。

現況|小規模企業共済(中小機構)より引用

組合員が大幅に増えなくても一定数を保ち続ければ、潰れる可能性は低く、安定して存在し続けます。

また小規模企業共済は国がつくった制度であることからも、なくなって掛金が無駄になる可能性は低いです。

2. 小規模企業共済の改正

2016年度4月の法改正にともなって小規模企業共済制度の改正があり、解約金の制限が緩和されました。

その結果、一定の共済事由について受け取れる共済金額が上がり、共済金を受け取れる遺族の幅が広がりました。

加入時及び増額時に必要だった現金での申込金が不要になり、手続きの手間が減ったほか、契約者貸付制度の拡充も行われ事業資金や事業関連の資金を調達しやすくなりました。

≫小規模企業共済とは? 危ない・デメリットがあるって聞くけど本当?(創業手帳)

3. 小規模企業共済のメリット

メリット

⑴ 掛金の最大120%相当額が戻ってくる

小規模企業共済の最大の魅力は、解約時に掛金を納付した期間に応じて最大120%相当額が戻ってくるという点です。

ただし、納付期間が一定以下だと元本割れのリスクもあります。

⑵ 掛け金分を節税できる

小規模企業共済の掛け金は、全額が経費(個人事業主の場合は所得控除)となるため、支払った分だけ節税することが可能です。

簡単にいうと「貯金をコツコツ積立てることで税金が安くなる」ということです。掛金の最大120%相当額が戻ってくる上に、節税することもできるので加入期間が長いほどお得だということになります。

⑶ 税負担が大幅に軽くなる

小規模企業共済は、解約時に共済金(解約手当金)を受け取る際には税金を支払わなければなりません。

しかし、受け取る共済金は個人事業主であれば「退職所得」になるため、「事業所得」などに比べて税負担が大幅に軽くなるのです。

※退職所得が事業所得などに比べて税負担が軽くなるワケ

課税対象となる所得金額の計算方法は、

「事業所得」の場合:収益-費用=所得
「退職所得」の場合:(退職金-控除額)×1/2=所得

となります。
退職所得の場合、「控除額」や「×1/2」があるため、課税対象となる所得が大幅に小さくなり、税負担が軽くなるのです。小規模企業共済の共済金は退職所得になるため、事業所得の一部を掛金で積立てて共済金を退職所得として受け取る方が節税できてお得です。

⑷ 無理のない額を積立できる

小規模企業共済は掛金を月1,000円~70,000円の間(500円単位)で自由に設定することができるため、無理のない範囲で積み立てることができます。

起業して間もなく、お金がない時期でも毎月一定額を積立できるようになっています。

余裕ができたら掛金を増額することもできますし、反対に掛金が高いと感じたら減額することもできます。

⑸ 様々な低金利の貸付制度を利用できる

小規模企業共済には低金利の「契約者貸付制度」が存在しており、積み立てている金額の範囲内で共済から資金を借りることができます。

たとえば、月5万円を5年間積み立てていれば、5万円×12カ月×5年=300万円まで借り入れることが可能です。

もし、資金がショートしてしまうような危機に直面した際には、この貸付制度を利用して資金調達することができます。

ただし、この貸付制度を利用するのは緊急時に限ります。本来であれば、このような資金調達を行うという事態にならないほうがいいはず。

⑹ 内縁関係者に財産を遺せる

小規模企業共済では、内縁関係者に財産を遺せるメリットがあります。

内縁関係者とは、戸籍上未婚の妻や夫、子孫や祖父母を含む人たちのことです。

本来は民法に沿った手続きのもと作成された遺書が必要になるものの、小規模企業共済は遺書なしで内縁関係者に財産を遺すことができます。

⑺ 共同経営者も加入が可能

2011年の加入対象範囲の見直しにより、共同経営者(事業専従者)も加入できることになりました。

共同経営者の要件は、事業経営に必要な資金調達をしている・借り入れの連帯保証人などになっている・事業経営の重要な意思決定をしているなどがあります。

ほかにも、事業の執行に対して報酬を受けている・個人事業主が小規模企業者であるなどがあり、あてはまる人は小規模企業共済に加入できるようになりました。

証明する資料として、個人事業主の確定申告書・共同契約書の写しまたは金銭消費貸借書などの写し・社会保険料の標準報酬月額通知など報酬を受けている証明になる資料を提出し、認められると加入できます。

4. 小規模企業共済のデメリット

デメリット

⑴ 元本割れのリスク

最大のデメリットは、なんといっても「元本割れのリスクがある」ということです。

運営団体である「独立行政法人中小企業基盤整備機構」のホームページでも、掛金納付月数が240ヵ月(20年)未満の場合は元本割れとなることが明記されています。

共済に加入しても数年で解約してしまった場合は「節税効果 < 元本割れの金額」となる場合が多いため、慎重に検討しておくことが必要です。

⑵ 掛金の減額・掛止めをすると減額分は運用されず放置

掛金を減額したり、掛止めしたりすると、減額された分の掛金はその後運用されないままになってしまいます。
所定の手続きをすることで、掛金の減額も掛止めもできます。満期になれば受け取ることもできます。
しかし、手続きしてしまうと、それ以降の減額分はまったく運用されず、1円の金利もつかないまま放置されてしまうのです。

⑶ 共済金受け取り時に課税される

先述したように、積立時には節税できますが受け取る共済金(解約手当金)には課税されることとなります。共済金は受け取った年に課税されるので、受け取った年に一気に税負担が増すのがデメリットといえます。

小規模企業共済は「課税を先送りにできる制度」だということをしっかりと認識しておきましょう。

ただし、メリットの項目でもお伝えしましたが、共済金受け取り時の税負担は軽減されることとなるため、トータルで考えると大きなデメリットにはならないでしょう。

⑷ 12カ月未満の掛捨てリスク

小規模企業共済の納付月が12カ月未満の場合、共済金が受け取れず、掛捨てになってしまいます。

法人の解散や病気・怪我以外の理由で65歳未満で退役した際に受け取れる「準共済金」と、任意解約や12カ月以上の滞納があり、機構側で解約になった場合の「解約手当金」が該当します。

ただし、契約者の責任ではない「やむを得ない理由」での滞納はこの限りではありません。

⑸ 規模が大きいと加入できない

その名のとおり、小規模企業共済は小規模事業者を対象としています。

業種によって人数は違いますが、従業員数が一定以上になると加入できなくなってしまう可能性があるため、注意が必要です。

規模が小さいうちに加入すれば、その後人員が増えても加入を継続できるため、早い段階、できれば起業してすぐに加入するといいでしょう。

5. 小規模企業共済への加入

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小規模企業共済に加入できるのは「個人事業主や小規模な法人の役員等」です。

業種にもよりますが、従業員数が一定数以上を超えると「小規模企業」ではないと見なされてしまい、この制度を利用できなくなってしまいます。

ただし、要件を満たしている時に一度加入しておけば継続することは可能です。

このような理由から、小規模企業共済に興味がある事業者は、創業したらすぐに(会社が大きくなる前に)加入を検討しておきましょう。

⑴ 加入資格

下記いずれかの加入要件を満たしていれば、小規模企業共済に加入することができます。

小規模企業共済制度の加入要件

1.建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社の役員

2.商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社の役員

3.事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員や常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員

4.常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員

5.常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員

6.上記1、2に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)

(独立行政法人中小企業基盤整備機構のHPより引用)

⑵ 加入プラン

小規模企業共済の掛金は、500円単位で月々1,000円から、最大7万円までを自由に設定できます。

掛金は全額が所得控除の対象として申告できるので、月額7万円の掛金であれば、最高84万円の控除が受けられるのです。

また、この掛金は前払いしたもの向こう1年以内のものも控除の対象となり、最大168万円の控除を受けることも可能です。

⑶ 小規模企業共済の加入手続き

1. 必要書類の入手
2. 書類の記入
3. 中小機構が業務委託している団体or金融機関の窓口へ提出
4. 中小機構からの書類の受け取り

加入手続きに必要な書類は中小機構のホームページで入手できる「契約申込書」「預金口座振替申出書」のほかにも、個人事業主・法人の役員・共同経営者かによって異なる書類が必要となります。

【加入手続きに必要な書類】

全共通・契約申込書
・預金口座振替申出書
個人事業主の場・確定申告書の控え
事業を始めたばかりで確定申告書がない場合は「開業届」の控え
法人(株式会社など)の役員の場合・役員登記されていることが確認できる書類
金銭消費貸借契約書や出資契約書の写し
共同経営者の場・個人事業主の確定申告書の控え
・個人事業主と締結した共同経営契約書の写し
・報酬の支払い事実が確認できる書類
社会保険の標準報酬月額通知、青色申告決算書、白色申告決算書および賃金台帳、国民健康保険税・介護保険料簡易申告書等のいずれか

⑷ 掛金の納付方法

小規模企業共済の納付方法は、預金口座振替で支払うことができます。

支払い方法は、「月払い」「半年払い」「年払い」の3種類から任意で選ぶことができます。

振替日は毎月18日(18日が休日であれば翌営業日に振替)で、初回から口座振替にすることも可能です。

ただし、この場合、手続き完了までの掛金を初回振替日にまとめて振替する必要があるので、注意が必要です。

⑸ 給付金を受け取るタイミング

給付金を受け取れるタイミングは、3つに分かれています。

まずは、事業を廃業した場合です。何らかの理由で廃業した場合に給付金を受け取ることができます。

また、退職した場合も同様に、給付金を受け取れるほか、第3者に事業すべてを譲り引退する場合も給付金を受け取る対象者となるのです。

さまざまな理由で事業を廃業、引退する場合に受け取れると思っておけばいいでしょう。

⑹ 受け取る方法

給付金の受け取り方法も、3つに分かれており、任意で選択可能です。

内容は「一括」「分割」「一括と分割の併用」で、「分割」の場合は10年と15年のどちらかを選択できます。

また、給付金の受給者が受給期間中に亡くなった場合は、別途「繰上受取り」が可能です。

ただし、この受け取り方ができるのは、分割での受け取りを希望している事業者だけなので注意が必要です。

⑺ 複数事業のある小規模企業

複数の事業を営む個人事業主も加入はできますが、メインとなる事業に合わせて事業規模を判定されます。

事業内容により常時使用従業員数または組合員数が変わるため、メインの業種はどれかを判断し適した人数か確認しましょう。

たとえば宿泊業と小売業を営む会社で、宿泊業がメインの場合は宿泊業で判断し、宿泊業の常時使用従業員数は20人以下です。

6. 小規模企業共済の解約方法

キャンセル文字の積み木

小規模共済を解約するには、必要書類を用意し中小機構へ送付すると指定の口座に解約手当金が振り込まれます。

必要書類はマイナンバー(個人番号)確認書類(解約手当金が100万円以下の場合不要)と、中小機構の様式書類として共済金等請求書・退職所得申告書・共済契約締結証書です。

中小機構の様式書類は公式サイトからダウンロードでき、記入例が載っているので間違いのないよう記入します。

解約手当金の受け取り先にする口座のある金融機関で、共済など請求書を提示して口座の確認印をもらい、全ての書類を中小機構の小規模共済給付課まで郵送します。

受け取り口座は屋号のない個人名義の口座に限られるので、注意しましょう。

また、240カ月(20年以内)に解約した場合は受け取れる解約手当金が掛金残高を下回る可能性があるので、この点に注意しておきましょう。

7. まとめ

個人事業主や小規模な企業の役員にとって、小規模企業共済が非常に魅力的な制度であることが分かっていただけたでしょうか。

加入してから240カ月以内だと元本割れしてしまうこともありますが、掛金は月1,000円から積み立てることができるので、毎月の負担を抑えることができます。

増額や減額もできるため、自分の状況に合わせて積み立てていくことも可能です。

退職後の生活を考えて、小規模企業共済を検討してみてはいかがでしょうか。